播州(兵庫県)室(むろ)の明神(みょうじん)と都の賀茂明神とは御一体であるというので、室の明神に仕える神職は、都へ上り賀茂の社に参詣します。すると、その河辺に新しい壇が築かれ、白木綿に白羽の矢が立ててあります。それを見て不審に思って、丁度そこへ水を汲みにやって来た二人の女に問いただします。女は、「昔、この里に住んだ秦の氏女が、朝夕この川の水を汲んで神に手向けた。ある時、川上から白羽の矢が流れて来て水桶に止まったので、持ち帰って家の軒にさしておくと、懐胎して男子を産んだ。この子と母、そして白羽の矢で示された別雷神(わけいかずちのかみ)を賀茂三所の神というのだ」と、賀茂三社の縁起を語ります。続いて水を汲みながら川に因んだ歌を引き、その流れの趣を語り、やがて自分が神であることをほのめかして消え失せます。(中入)ややあって女体の御祖神(みおやのしん)が、姿を現して舞をまい、続いて別雷の神が出現して、国土を守護する神徳を説き、猛々しい神威を示したあと、御祖神は糺(ただす)の森へ、別雷の神は虚空へと飛び去って行きます。
解説 権藤芳一著『能楽手帳』より
今回の演目 あらすじ
賀茂 かも
鉄輪 かなわ
都に住む一人の女が、自分を捨て、新しく妻を迎えた夫の不実を恨んで、洛北、貴船の社に日参し、祈願をかけています。今日も社前に進むと、待ち構えていた社人が、「頭に鐵輪をいただき、その三本の足に火をともし、顔に丹を塗り、赤い着物をきて、怒る心をもてば、たちまち鬼となって願いがかなう」と神託のあったことを告げます。女は人違いだと言いますが、そういう内にも顔色が変じ、つれない人に思いを知らそうと走り去ります。(中入)一方、下京の男は、悪い夢見が打ち続くので、陰陽師、清明のもとを訪れ、事情を述べて占ってもらうと、女の恨みで今夜にも命が尽きると言われ、急いで祈祷を願います。清明は、祭壇を整え、男と新しい妻の人形を作って置き、祈り始めます。すると、悪鬼となった女の霊が現れ、夫の心変わりを責め、後妻の髪をつかんで激しく打ちすえますが、守護する神々に追っ立てられ、神通力を失って、心を残しながらも退散します。
解説 権藤芳一著『能楽手帳』より

